7-1-6 一年後、厳冬期の出来事
2018年の秋、生活できるレベルに工事が進み一段落したため9月末に引っ越す。その後、ボイラーシステムも順調に運用がすすみ、蓄熱水8トン、コンクリート37㎥、建物や生活財全体に蓄熱がゆきわたった。早朝の気温が マイナス15℃まで下がる翌年1月末、電柱設置トランスの保守点検のため停電があるむね東北電力より連絡が入った。
予定どおり停電になり、通電後、ボイラーシステムを立ちあげてから出張し、一週間後に帰宅した。家に入ると室内の温熱環境が通常より寒いことに気づき、家内にたずねたところ特に寒くはないという。ボイラーシステムは作動してなく、室温、床・壁・天井の表面温度を測ると、平均して1.6℃ほど低下していた。
東北電力に一週間前の停電以降、停電発生の有無を確認したところ、ボイラーを立ち上げ出掛けてから30分後に復旧作業の手違いにより一瞬停電があったとのこと、原因がわかり安心した。当時、最低気温はマイナス18℃まで低下したときもあり、平均室温は、起床時が19℃、晴天の昼過ぎが21℃、就寝前は20℃前後であった。その条件から推測すると、ボイラーシステムが停止した厳冬期の7日間に、一日平均して0.2 〜 0.25℃ほど室温が低下していったようである。しかし、家内は室温の低下が徐々にすすみ、床・壁・天井の表面温度が平均して下がったためか、室温の低下にはまったく気がつかなかったようである。
くしくもこの出来事は建物の蓄熱性能と断熱性能が当初の狙いどおりであることを示すとともに、将来、天候に左右されやすい太陽エネルギー利用システムに移行しても問題ないことが確認でき、貴重な体験となった。
ちなみに、終の住処の熱容量を試算すると、まず水が8トン、基礎コンクリート37㎥、この両方の蓄熱量を水換算でカウントすると24.65トン分の水に相当する 。終の住処の熱容量は24,650kcal/℃となり、床面積あたりの熱容量は251.53kcal/㎡・℃となる。床面積あたりの熱容量が二桁の住宅は目にするが、三桁も熱容量がある現代住宅は初めてではないだろうか。
◆ 冬の室内温度と健康
世界保健機構(WHO)は2018年11月に、冬の住宅における最低室内温度として18℃以上を強く勧告している。そして、幼児や高齢者はさらに温かい室温を推奨している。
イギリスでは「家の寒さと死亡率の関係」について長年にわたり調査研究をしており、その結果を「住宅の健康・安全性評価システム」として公表している。それによると、室温が16℃を下回ると呼吸系疾患に影響があらわれ、12℃以下になると血圧上昇や心臓・血管へのリスクが高まると報告している。
一方、わが国において、慶應義塾大学の伊香賀教授が委員幹事をする国土交通省の調査によると、居住者の平均年齢が57歳の住居2,000戸を対象に調査した結果、冬の居間では6割、寝室や脱衣室においてはなんと9割もの住宅が18℃に達していなかったそうである。廊下、脱衣室の平均室温は12℃、居間でも16℃だった。
◆ 刑務所 冬の室内温度
大手設計事務所勤務の知人から聞いた話。受刑者を収容する刑務所や刑事裁判が確立してない未決拘禁者を収容する拘置所における冬の室内温度は、なんと10℃に設定しているとのこと。なぜ10℃かというと、それ以上温かくすると脳に血がまわりよからぬことを考えるからとか。刑に服すことは心身ともに健康への影響が大きいことが理解できる。しかし、たとえ受刑者といえども、人権問題の視点からみるといかがなものだろうか?
冬の刑務所や拘置所内はとても寒いようで、差し入れには温かい下着や羽毛服が多いそうである。カルロス・ゴーン氏がアクション映画まがいの逃亡を決行したのは、わが国の司法制度もさることながら冬の拘置所内の劣悪な温熱環境があったからかもしれない。
トピックス7−2 QMCH 深夜食堂
クイーンズメドウ創始者 今井 隆さんとの出会い
はじめてクイーンズメドウ・カントリーハウスに滞在したのは2008年の厳冬期だった。東京駅から遠野駅まで順調に列車をのりついでも5時間はかかる。駅から遠野盆地を北にぬけ13km先の附馬牛(つきもうし)の荒川集落のはずれに、QMCHは隠れ家のようにひっそりと佇んでいた。
滞在した施設は上質なつくりであり、遠野の街からさらに奥まったところになぜこのような施設をつくったのか、そのコンセプトに強く関心をもち、創始者にお会いしたいと思った。施設にこれだけ投資するには、長期的なビジョンがあるにちがいない、と考えたのである。
ようやく今井 隆さんにお会いできたのは2011年9月下旬。前年に博士論文をまとめ、3.11震災の1ヶ月後に微気候デザインの著書を出版し、大学の講義準備をすませたころでもあり、心身ともにかなり疲れていた。
そんな僕の体調を見透かしたかのように、体育会クラブのノリで森の中にある馬のボロ(糞)山の片付けに誘われた。三人がかりで丸二日かけて大きなボロ山を3箇所も片付け、夕方まで大汗をかきクタクタになった(後でわかったが、このボロ山は何年も片付けることができずに放置されていたらしい。ボロ山には丸々と成長したカブトムシの幼虫がバケツ一杯も生息していた)。
はじめての出会いは力仕事であったが素のままの人柄と優しいご配慮に接し、今までに出会ったことのない新鮮味を覚えた。
彼は多忙を極める時期だったようで、次にお会いできたのは翌年の盛夏であった。代官山の小川軒でランチをしながら、QMCHではいずれセルフビルト方式によるハウジング事業をしたい、と熱く語っていた。一般的にリタイヤー後の自由裁量時間は7万時間ほどもあるといわれており、人生のラストステージ(第二の人生)を迎える方々のために、心底から暮らしを楽しみながら「終の住処を建てる事業」を計画したいとのことであった。お会いするのは2回目だったが、今井さんとは不思議と馬があい、その計画に惹かれた。
深夜食堂
人里離れたこの場所は夕日が沈み、しばらくするとあたりはすっかり暗くなり、都会の明るい夜とはことなり、闇につつまれ、天の川や流れ星を眺めることができる。今井さんが東京からQMCH入りすると新館二階のオーナーズルームは食堂に早変わりし、食事を楽しみながら夜がふけるまで懇談がつづく。
遠野は山と海の幸がリーズナブルな値段で手に入るため、新鮮な素材の味を活かした料理をお出しできる。開店後、試行錯誤し、一の膳から三の膳のおまかせコースが定番となった。
2人ともアルコールは嗜む程度だが、興がのるとデジタル流しを550km遠方に注文することもある。
そしてエリーさんが滞在する時は、一階のキッチンにBarが開店するので、梯子酒にエリーズバーへ繰りだすことになる。ここのハイボールの味は絶品である。70年代や21世紀になってから、国内洋酒メーカーによるハイボールのTVCMが一時流行ったが、僕は個性のない味のウイスキーを強めの炭酸水で割った飲み方は、けして美味いとは思わなかった。
エリーさんが創るニューヨーク仕込みのハイボールは、SCOTCH WHISKY BOWMORE 12年物の上品でスモーキーな味、ソーダ水は刺激が弱め、氷はQMCH産の井戸水からできる天然物をつかい、そのまろやかな美味しさには感動した。
懇談の話題 / 深夜食堂で語るテーマは多岐にわたり奥が深い。一部項目のみご紹介
● QMCHの目指している基本は四つ / ①住むところ、②食べるもの、③仲間、④生業
● QMCHの活動は次の項目が含まれている /日常性、地域性、社会性
● 社会的共通資本/先人達が創り上げてきた社会的な共通資本は戦後創ってきたのだろうか? かつては「国破れて山河あり」だったが、近年の状況は「国栄えて?山河なし?」、宇沢弘文さんは「社会的共通資本を支える生業を絶対に無視できない」、「いまの経済学では生業的なものを失うので、社会的共通資本は毀損する」という。
●行き詰まった金融資本主義 /自らの首を絞めている資本主義を救う時間は残っているのか? 渋沢栄一は「左手に論語、右手に算盤」、二宮尊徳の哲学は「道徳なき経済は犯罪だ、 経済なき道徳は寝言だ」という。
●2023年8月、東京23区内のマンションの平均価格は前年の同月より85%も上昇、誰のための住まいか、このバブリーな異常さ、今だけ、金だけ、自分だけの世界、格差社会
● 人生のラストステージ(第二の人生)/身を粉にして働き,家族を養い,住宅ローンを返済し、税金を払ってきた国民の人間としての尊厳は守られているのか? / 国の施策、経済界の動向、老人ホーム、リバースモーゲジなど /金融資本主義は高齢者の懐に狙いを定めている。
● 全国の中山間地域の過疎化・荒廃への対応策/金融資本主義では限界か、QMQHの活動・墓苑事業による里山環境の再生は中山間地域資源による新しい事業(この事業は発明だ!)
●若人への継承 / QMCHの四本の柱(施設の維持管理、農事、馬事、森林環境整備)
●MCHの暮らしそのものが事業資産/ハヤチネンダ事業、セルフビルト形式ハウジング事業
● 限界を知る/肉体的な限界、精神的な限界、実現させたい夢・希望があり意思のエネルギーがあれば70代という歳は超越できるか。アクティブなラストステージを楽しむゆとりとは。
7-2 電気設備
敷地は高清水山の放牧場へのぼる道路に接し、そこには電力線が敷設されており、敷地の端に引き込みポールを建て、家や井戸までは景観に配慮し電線は地中埋設とする。
わが国の住宅地や街の景観はなんとも見苦しい。それは道路上に電力線、電話線、光ファイバーケーブルなど我がもの顔に張りめぐらされ、じつに目ざわりである。
かつて江戸時代、この国を旅した西欧の人たちは浮世絵のような美しい街や農村の景観に驚嘆したという。しかし、この国は150年ほどかけ、すっかり街や里の生活環境を美しくととのえることを忘れたかのようでもあり、新幹線の車窓から眺める景観はなんとも残念としかいいようがない。
夏蒸し暑く冬寒いわが国の気候特性において、それぞれの季節を気持ちよく暮らしてゆくためには、建物の工夫とあわせて冷暖房設備など電気設備の設計品質に大きく影響をうける。住宅設計にたずさわる設計者やハウスメーカーは数多くあるものの、建主さんから次のような話をうかがったり、同じような調査結果を目にすることがおおい。
「夏は最上階の部屋が昼過ぎころから夜まで蒸し暑く、不快極まりない」、「西陽が射しこみエアコンが全く効かない」、「冬は足元が冷え、立ち上がると顔が熱くなり部屋上下の温度差が気になる」、「新築したのにトイレや脱衣室が冬寒く暖房への配慮が中途半端なのにはがっかりした」、などなど。
家を建てられることは恵まれ幸せなことではあるものの、毎年、夏や冬に不快な思いをしつつ長期にわたるローン返済をしなくてはならない建主さんの心中を、住宅設計にたずさわるかたたちは認識する必要があろうかと思うのだが . . . 。
夏も冬も気持ちいい暮らしができる家を設計するためには、建物設計に5割、設備設計に5割くらいの設計エネルギーを注ぐことが肝要ではないかとも考える。
ちなみに、2004年に住文化研究協議会がまとめた「都市居住者が望む住環境調査」の結果によると、エアコンによる冷暖房は子供から高齢者まで8割近いひとびとが「エアコンは好きでない、心地よくない」と回答していた。
7-2-1 建物内の熱循環
厳冬期や盛夏に建物内の熱を循環させるための装置として、床下空間から吹き抜け上部に直径150mmの垂直ダクトを設け、
床下空間のダクト端部には二重反転(カウンターローテーション)送風機
を設置する。
厳冬期における室温は外気温によって多少の変化はあるものの、起床時には19℃前後で、この時、床下の蓄熱水温は28〜29℃ほどある。冬の朝は吹き抜け上部から空気を吸い込み床下空間を正圧にし、この床下の暖かい空気を開口部下部にある床面スリットより吹き出し、ガラス面からのコールドドラフトを押さえつつ室温をほんのわずか上昇させる。床下の暖かい空気の吹き出しは30〜60分程度にしようと考えている。その理由は床下の暖気を居室に大量循環させると、蓄熱水の温度が低下してしまう恐れを想定しているからである(5章後編 5-4-3 参照)。
この建物は蓄熱・断熱性能を地域基準より高めているため、夏の午前中は室温より高い屋外の空気導入は最低限にとどめる。そして昼ころより室温が上がってくる時は、床下の20〜22℃ほどで湿度の低い涼しい空気をダクト端部に設置した二重反転送風機をまわし、吹き抜け上部より30〜60分ほど吹き出し、室内を涼しい環境にする。この時、床下空間は負圧になり床面スリットより居室の空気を循環させる。厳冬期と同じように60分以上はしないようにと考えている。
7-2-2 室内の空気環境
健康的で気持ちいい暮らしを営むためには、室内の空気環境を整えることが重要である。
紀谷文樹編「建築環境設備学 新訂版」彰国社 2003年に、人が1日に摂取するさまざまなものの重量比について紹介されていた。それによると、食物と飲物が15%、外気が5%で、なんと室内空気は57%もあり、成人1人当たり1日に摂取する空気量は12〜24kgにものぼるという。このデータを読み、新鮮な室内空気が人の健康にいかに重要であるか再認識したほどである。
終の住処づくりでは室内の空気を汚染しないよう、旧宅で30年間使用してきた自然素材の仕上材を取り外し再利用することにした。建設地は立地環境に恵まれており、自然通風・換気を積極的にするため年間の風環境に配慮しつつ開口部の位置と大きさを注意深く設計した。
30坪ほどの床面積に夫婦二人が暮らし、オープンなプランでかつ天井高があるため、機械換気設備は最低限の換気能力にし、季節のいいときには通風を中心に計画した。人が汚染源となる部屋の必要換気量として、1人当たりおよそ25〜30㎥/hが推奨されており、この数値を目安に換気計画を考え、建物全体・キッチン・サニタリーまわりの換気設備機器を選定した。
建築確認申請時に「終の住処」は特殊な設計であると認識されたのか、建築主事より多岐にわたりヒアリングを受け、換気計画については根拠となる計算書を提示するよう求められ、次のような資料を提出した。
換気設備機器については低騒音タイプを選定したが、暮らしてみるとやはり予想どおり換気扇の回転音(暗騒音)が気になり、デスクワークや就寝時には換気扇を止めるようになった。
季節のいいときにはもっぱら自然換気が気持ちよく、炊事どきのみ換気扇(冬季、キッチン換気扇は熱交換型強制給排気型にモード切替/第1種換気)をまわす。
やはり室内には自然の気流感があるほうが気持ちよくすごせる。夏季は1秒間に20cm前後ほどの気流がここちよく、樹の葉や梢のゆれぐあいを眺めつつ窓の開けかたを調整するのは苦にならない。
風呂につかることは至福のときでもあり、入浴中、無粋な換気扇の音は気分を害する。小窓を開け、湯にひたりながら肌に外気の刺激をうけるほうが、よほど気分がいい。浴室の壁・天井は東京の家で30年間使ってきた檜板を再利用する。裸のときには自然素材につつまれるほうが気持ちよく、湯気による天井結露もないため、冷やっとする水滴も落ちず快適だ。入浴後は、湿気を飛ばすために換気扇(第3種換気)を回すように心がけている。
暖炉の煙突は換気にも役立つ。暖候期には煙突のダンパーを開けておくと無風時でも室内換気ができ、風が吹いていると換気量が増加する。朝夕、冷えてきたと感じるころにはダンパーを閉じる。うっかり忘れていると屋外の冷気が室内に侵入する。暖房は蓄熱方式で十分まかなえるが、寒くなると暖炉を焚いて火を楽しみたい。
冬期は窓を閉めて暮らすため、室内の空気環境に配慮しつつ結露が発生しないよう、熱交換型の強制吸排気システム(第1種換気)を作動させつつ室内外の圧力差が極端に生じないようにしている。
室内換気は機械換気ではなくパッシブな手法にしたかったが、残念ながら勉強不足で対応が叶わなかった。梅干野研究室先輩の田中稲子さん(現横浜国大教授)が学位論文でまとめられた「息をする壁」、寒冷地で実験的に試行されている換気手法などについて興味をもっている。
トピックス7−3 QMCHメンバーがデザインした建物 グッドデザイン金賞を受賞
多才な顔をもつ西村佳晢さんはQMCHとも深いつながりがあり、ワークショプのファシリテーターとしてクイーンズメドウにしばしば滞在される。彼は岐阜で医療施設を経営されている市橋院長・平田マネージャーより、高齢化社会に対応し地域に開かれた在宅医療施設を建設したい、という相談を受け、この建物設計をQMCHメンバーの若手建築家である安宅研太郎さんに話を繋いた。安宅さんはランドスケープデザインを田瀬理夫さんに、開放的な建築空間の温熱環境デザインを僕に打診してきた。
この建物の設計は2016年、建設は2017であった。2016年の早春に岐阜へおもむき建設予定地を調査し、事前に用意した資料をもとに立地環境と気候特性を把握した。木曽川がおおきく蛇行した屈曲点の外側に敷地が位置するため、50〜100年に1度発生するかもしれない集中豪雨をみこしてハザードマップを確認し、建物の重要部分は水害対策が不可欠であると判断した。
お施主さんからの設計要件は「地域に開かれた施設にしたい」という希望があり、安宅さんの基本設計は開放的な空間が連続し、延床面積は689.02㎡の二階建てになった。夏涼しく冬暖かく、ランニングコストを抑えるためには建物に蓄熱性能を持たせる必要があり、水蓄熱方式のパイオニアである(株)イゼナの前田さんに相談した。
一階床下には厚み90mm、二階には45mmあわせて17トンの水を敷設し、その熱源は床下にエアコン6台を設置し、床下を空調スペースとして冬は温風、夏は冷風を吹き出し建物全体の温熱環境をコントロールすることにした。(株イゼナHP、施工実績/総合在宅医療クリニック かがやき)7-4)
2017年11月に竣工し、「かがやきロッジ」と命名され、地域に開かれた施設として多目的に活用されるようになった。この施設は、在宅医療の先進的な事業として運営され、2019年にグッドデザイン金賞に選定された7-5)。(建築家 安宅健太郎/株パトラックHP7-6))
クイーンズメドウのメンバーには、それぞれの分野で活躍する多彩な人たちが集まっており、良い仲間に恵まれ刺激的であり、ユニークな集団であると常々感じている。
7-3 水道設備
計画敷地は遠野市の上下水道インフラのある集落から1,000メートも離れているため、血沸き肉踊るようなダイナミックな井戸掘削をして飲料水を得ている(第2章参照)。この水をポンプアップし、室内では都会生活と変わらない暮らしが可能となる。
寒冷地では冬期、当たり前のように水道管の凍結が発生したり、凍結対策として地面から立ち上がった水道管に電熱線を巻きつけたり、冬期に家を空ける時は水抜栓を忘れずに回しておくことが求められる。終の住処づくりでは、家から150m離れた井戸からの給水パイプを凍結深度(遠野では地盤面から60cm)以下に埋設し、外断熱仕様にした布基礎内部に直接ひきこんでいるため、水道管凍結のトラブルは発生しない。
7-3-1 浄化槽
毎日の生活は水無しには成立しない。朝の洗面、煮炊き、掃除、洗濯、風呂、トイレなど、心地いい暮らしは水に支えられているといっても過言ではない。暮らしで使われた水はいずれ海へと流れていくが、河川や湖、海の水質汚染が認識されひさしく時がたつ。しかし、いまだに人口の20%ほどの人たちが使った水は、汚れたまま川や海に流されているといわれている。
家庭用の小型浄化槽にはし尿だけを処理する単独浄化槽と、し尿と生活排水の両方を処理する合併浄化槽がある。終の住処を建てる場所は上下水道インフラのない場所であるため、河川の水質汚染に影響をあたえないよう遠野市から合併浄化槽の設置を指導されている。
水の汚れぐあいを表す指標としてBODがあるが、これは水の汚れをバクテリアが分解するのに必要な酸素量のことで、し尿と生活排水をあわせた排水の汚れは1人1日あたりBOD負荷量にして40gあるといわれている。合併浄化槽の処理水能力は除去率90%以上あり、処理水のBODは4gになる。
自分が気に入った土地に井戸を掘削し水を得て、終の住処を建て、そこで暮らし、生活排水すべてを合併浄化槽で処理すれば環境におおきく負荷をあたえることもなく、いわゆるボットン便所の不便さも回避できることはありがたいものだ。
7-3-2 浴室、サニタリー、給排水・給湯
キッチン、浴室、洗面、洗濯、トイレは気持ちよく使えるようデザインするととともに、建物の中心にまとめ、給排水・給湯配管の距離が無駄に長くならないよう配置する。
浴室と脱衣室は裸になる場所であり、たとえ厳冬期に外気温が マイナス20℃に下がっても室温が20℃ほどに保たれるように配慮する。また、歳を重ねるにしたがい就寝後のトイレ使用を考慮し、寝衣のまま用を足してもヒートショックにならないようサニタリーエリアの床下にも蓄熱水を設置している。
浴室はセルフビルトであるため防水・水仕舞いなどの施工精度や工数を考え、FRP製のハーフユニットバスを選択した。
周辺環境を眺めながら風呂を楽しめるよう窓は大きめにする。湯にひたると正面に六甲牛山が遠望でき、遠野盆地の景観や雲海を眺めながらの入浴シーンをイメージしつつ、終の住処の目的的なスペースとしてデザインした。
給湯器(給湯、風呂自動お湯張り・追い炊き機能)のエネルギーは灯油とし、暖房用ボイラーとエネルギーの共通化(遠野地域ではプロパンガスは灯油より割高)をはかる。
給排水・給湯工事をお願いしている福嶋さんの助手をして、配管の考えかたと手法について実技体験する。この時、水道設備工事にはおおくの工具類が必要であることをはじめて認識した。土を掘り・埋めもどす工具、木材やコンクリートを加工する工具、配管類を切断・加工する工具、電気工事に使う工具類、配管や設備機器の修理工具、梯子や脚立類などなどをふくめ、彼の大型のワンボックスカーには所狭しと工具や工事資材が収納されており、まるでハードウエアーショップさながらである。これ以外にも給排水管を埋設するために溝を掘る小型ユンボとそれを搬送するトラックもある。
トピックス7−4 QMCH 歳神さま お迎えの準備
クイーンズメドウの日常活動は多くの方々の暖かいご支援に支えられている。
11月下旬に農事の秋仕舞いを終え、師走に入ると歳神さまをお迎えする準備とあわせ、お世話になった方々へ一年間の活動報告と御礼をお送りすることが恒例になっている。
ご報告と御礼メッセージをしたため、有機栽培した米から玄米餅を作り、その稲わらで正月用の輪飾りをつくり、年末にお届けしている。
クリスマス前後にQMCHのメンバーが遠野に集い、その作業を全員で分担し、手際よく作務をこなす。メンバーは多くの世代にわたっており、幼稚園生、小学生、二十代、三十代、四十代、五十代、六十代、七十代。まるで長年からの習慣のように老いも若きも参集し、ちょっとしたビックファミリーの行事さながらである。
クイーンズメドウでは身体を使った作務がいくつもある。本来人間は野山を歩き、土を耕し、食べ物をつくり、自分の手で暮らしに必要な道具やモノをつくってきた。身体全体を動かすことで人間は進化の過程においてプリミティブで重要な身体機能を獲得し、脳を発達させてきた。しかし現代の暮らしは、その機能の一部しか使わなくても済むようになった。すでに現代人は人類が本来持っていた身体機能のバランスを崩し、退化が始まっているのかもしれない。
参照HP)
7-1)エーテーオー株式会社、”ウッドボイラー®Nシリーズ、S-220NSB”、エーテーオー株式会社HP、https://www.ato-nagoya.com/boiler/?gad_source=1#:~:text=%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E7%94%A8%E9%80%94%E3%81%A7%E9%81%B8%E3%81%B6,-%E8%BE%B2%E6%9E%97%E6%A5%AD%E3%81%A7(2024年4月24日確認)
7-2)株式会社森の仲間たち、”家庭用薪ボイラー”、株式会社森の仲間たちHP、https://mori-nakama.org/product/boilers-home#:~:text=%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%88%B6%E5%BE%A1%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%AE%E4%B8%80%E9%83%A8%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%82%92%E7%9C%81%E3%81%84%E3%81%9F%0A%E5%AE%9A%E7%95%AA%E3%81%AE%E5%BB%89%E4%BE%A1%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB(2024年4月24日確認)
7-3)株式会社 長府製作所、”温水暖房システム 温水ルームヒーター”、株式会社 長府製作所HP、https://www.chofu.co.jp/products/hvac/list.php?cid=57(2024年4月24日確認)
7-4)株式会社イゼナ、”施工実績 総合在宅医療クリニック かがやき”、株式会社イゼナHP、https://izena.co.jp/result/2017_kagayaki-lodge/(2024年4月24日確認)
7-5)公益財団法人日本デザイン振興会、”2019グッドデザイン金賞 クリニック かがやきロッジ”、公益財団法人日本デザイン振興会HP、https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e1ebe2d-803d-11ed-af7e-0242ac130002(2024年4月24日確認)
7-6)一級建築士事務所 株式会社パトラック/アタカケンタロウ建築計画事務所、”かがやきロッジ”、株式会社パトラックHP、http://www.ataken.com/kagayaki-L/kagayaki-L.html(2024年4月24日確認)
第8章 造作 / 記憶の連鎖(comming soon・・・・・)→