「微気候デザイン」

変化に富んだ気候:全国に1,600カ所ほどある気象観測点のアメダスデータを解析すると、14の気候区域に分けられる。この14の気候区域は1,200年前の奈良時代の行政区とよく一致しており、当時の行政区分は文化や社会習慣、地形などの共通する単位としており、それは地域の気候と深く関わっていたといわれている。これだけ多くの気候区域がある国はほかに見あたらない。
気候風土と民家の形態:民家は地域ごとに独特の形態をしており、その形が大きく異なる理由は三つあげられる。一つは気候風土の影響で、おなじ季節でも地域によって暑さ寒さがかなりことなり、それぞれの条件にあわせいろいろな工夫が凝らされ、形態は多様である。二つ目の理由は生業による違いがその形に表れている。民家は職と住が一体化され、建物の外観や平面プランは生業によって大枠は決まってくる。三つ目としては、街、街道の宿駅、港町、農山村など社会的な環境で民家の形は変化している。
伝統的住環境に関する調査研究:80年代後半より20数年かけ、14気候区域のなかから、中世・近世につくられ、今も住み継がれている伝統的な集落や街を調査・研究してきた。民家形態、生業、社会的環境など、それぞれ独特な住環境を形成している要素を整理し、全国から50カ所を選定した。その結果、先人は夏涼しく冬暖かく暮らすため、住環境づくりに「建物周辺の工夫」、「建物の工夫」、「住み手の工夫」という3つの工夫を確立していた。そしてその工夫を串刺しするキーワードとして「微気候」、「敷地力」を見いだした。(はじめにを参照)
微気候デザイン発想の原点は登山:登山を精力的にこなしていた50年ほど前、立花隆氏のデビュー作「思考の技術 –エコロジー的発想のすすめ」を読んだ時、「微気候」というはじめて接する言葉が目にとまった。微気候の概念は登山をとおして感覚的に理解しており、彼の鋭い指摘と洞察力は印象に残った。その後、その言葉が自分のライフワークのキーワードとなるとは、当時まったく考えもしなかった。彼は「宇宙からの帰還」、「脳死」、「臨死体験」などなど興味深い多岐にわたる著作を出版し、目が離せない作家となった。