第6章 断熱・気密、結露、外部建具と外壁(前編)

 夏涼しく冬暖かく、ここちいい室内の温熱環境を実現するには、この章で述べる断熱・気密、結露、外部建具、外壁以外つぎにあげる項目が密接に関連する。第5章5-2-3 これからの住まいづくりに求められる設計コンセプト5-3-1 二重屋根の効用5-4-2 蓄熱部材として「水」に着目5-4-3 遠野における冬/夏のシステム運用検討

 今後、求められる住宅設計コンセプトは、夏の蒸し暑さと冬の寒さにたいして、資源エネルギーや設備機器に依存する前に建築的な工夫を追求し、自然エネルギーの恵みを活用して暮らすことが前提になると考えている。一方、伝統的民家では、もっぱら自然エネルギーの助けを借り、薪炭などを使う程度で、夏も冬も暮らしてきた。

 年間をとおして温度と湿度が激しく変化する気候風土のなかで、伝統民家は500年ほどかけ「夏をむね」として進化し、茅葺き屋根の断熱性能は現代住宅よりはるかに優れたものとなった。そして、蓄冷された土間や左官壁があるため、通風で涼しい暮らしを味わうことが可能だった。しかし、開放的な民家は建物耐久性の観点より気密性に配慮されてないため、冬はすき間風が入り寒い。    
 6章の工事項目は2017年9月初旬から11月下旬にかけて実施した。

6-1 断熱・気密

 夏暑く冬寒い気候特性では、まず躯体の断熱・気密は最も重要な要素といえる。断熱と気密は一体であり、いくら断熱性がよくても気密性が十分でなければ、冬すき間風が入り室内は暖まらず、夏の冷房も効きが悪くなる。家の周囲に緑が多い立地環境では、夏は窓を開け通風で涼しく過ごすことも可能だが、コンクリートやアスファルトでひろい面積をおおわれた都市環境では、日中夜間ともに冷房に頼らざるをえない地域もある。しかし、どの地域であろうとも家づくりには断熱・気密性の確保は注意深くしなければならない。

 断熱・気密施工については、各種工法タイプの施工現場を見る機会があったが、以前から少々気になっていることがあった。それは、設計図書に表示されている断熱材の性能値が地域の断熱基準を満たしていても、現場監督や職方の断熱材についての知識や施工技量により、設計図書どおりの性能が満たされてない現場をたびたび目にすることがあった。

 例えば、壁体内に充填する断熱材の量が十分でなかったり、然るべき部位に気流止め施工がしてなかったり、最上階居室の天井裏の断熱材が雑に敷きこまれ、すき間だらけだったりなどなど。このような施工状態をそのまま放置すると、完成入居後に問題発生しそうな現場がいくつもみられた。

 正確さに欠いた施工をすると、入居後の暮らしの快適さや光熱費ランニングコストは長期間にわたり悪影響をおよぼす。断熱・気密施工については、施工精度をいかに高めるかが課題であり、解決の糸口をみつけたいと常々気になっていた。

6-1-1 断熱の考え方
 終の住処では建物の蓄熱/蓄冷を重視しており、水8トンと基礎コンクリート37立米、水換算であわせて約24トン分の蓄熱容量を計画している。この大きな熱容量をもちいて冬の暖房と夏の涼房を気持ちいい放射型システムで実現するには、家全体の断熱性能は地域の一般的な断熱基準よりすぐれたものにすることが前提となる。 基礎・外壁・屋根全体をすっぽりと断熱材ですき間なく包み、特に屋根部分は夏の焼け込みと冬の放射冷却への対策が重要だ。そして断熱とあわせ遮熱についても配慮を忘れてはいけない。

基礎断熱
 遠野では夏、温暖化の影響により日中の気温は30℃以上になり、冬の最低気温は零下20℃まで下がる。そして、地中温度は地盤面から10m下がったところで遠野の年間平均気温 9.5℃程度に安定する。
 基礎コンクリート部分は構造体としての役割とあわせ、家全体の蓄熱/蓄冷部位としても活用するため、基礎の断熱仕様の決定は重要課題だ。蓄熱/蓄冷部位の年間温度幅は、冬期は28〜29℃前後、夏季は22℃前後にする予定である。このため面積の大きい基礎底盤部分は布基礎同様に外断熱仕様にし、蓄熱体から熱エネルギーが地盤面に逃げないよう(地球を温めないよう)厚さ75mmの発泡ウレタンフォームで断熱することにした。

 外気に面する布基礎部分には、シロアリ対策をほどこした厚さ80mmの発泡ウレタンフォームをもちいた。断熱材の厚みは性能を満たしつつ、外壁仕上材との取り合いに注意することがポイントとなる。このウレタンフォームは紫外線により劣化しやすいため、基礎型枠をはずすとただちに断熱材の外側をモルタルで被覆する必要がある。

外壁断熱
 断熱材には従来から使われてきたグラスウール以外、近年、石油化学製品からつくられた性能値の高いボードタイプ、吹付する発泡ウレタンフォームや新聞紙などを原料とするセルロースファイバーなどがある。終の住処はセルフビルトで建てるため、気流止・断熱欠損・各種取りあい部分の断熱施工を自分の手で確認しつつ断熱性能を保証できるよう、施工現場であつかいやすいグラスウールを断熱材として選定した。

 外壁の充填断熱は20kg/m3・厚み105mm高性能グラスウール、それに付加断熱として32kg/m3・厚み45mmの高性能グラスウールを使用。わずかでも断熱性能の弱い部分をなくすため、外壁には電気配線のコンセントボックスを極力設けないよう配慮した。

屋根断熱
 伝統民家の茅葺屋根や蔵造りの置屋根+左官屋根は、現代住宅の一般的な断熱性能より優れている。夏の強烈な焼け込みと冬の激しい放射冷却にたいして、親から子、孫世代という長期間にわたる暮らしの実体験により、屋根断熱は改善され美しい形に進化し、伝統の知恵となった。

 最上階の居室天井を平らに設置し、その上部に断熱層を設けるケースがおおくみられるが、屋根と天井の間にできる屋根裏空間は、居室の快適な温熱環境の視点から考えると中途半端な空間ともいえる。特に盛夏は太陽からの強烈な焼けこみにより、屋根裏空間が40℃を超えることもある。屋根裏空間に熱気抜きがなく、断熱性能が十分でない場合、最上階の居室天井に熱がじわじわ伝わり、昼過ぎころからその居室空間の温熱環境は不快なほど暑苦しくなることがある。

 東京で30年間暮らした家は当時の断熱基準より性能を良くしたが、夏の焼け込み・冬の放射冷却にたいして十分な性能がないことを痛感した。そこで終の住処では、現代の技術とあわせ伝統の知恵も活用することにした。室内空間を豊かに広く感じるよう天井は屋根勾配なりに設置し、屋根裏空間を設けず屋根断熱をしっかりとることにした。
 屋根構造は蔵造りの置屋根にならい二重屋根にし、焼け込みによる熱気はただちに屋外に排出する。勾配天井の断熱材は20kg/m3・厚み260mmの高性能グラスウールにした。二重屋根ができあがり、屋根葺き工事が完了した夏の終わりころ、昼休みに気温が30℃を超えそうになったため、太陽からの焼けこみによる影響を簡易測定した。二重屋根の居室側構造用合板の表面温度は16:00に最大でも28.0℃であった。盛夏において、この構造用合板の表面温度が30.0℃を超えたとしても、20kg/m3・厚み260mmの高性能グラスウールを設置しておけば、居室部分は通風で気持ちよく過ごすことができるだろう。

6-1-2 気密の考え方
 断熱と気密は一体であるため、施工時には断熱と気密を同時に配慮しながら工事を進めることが重要だ。寒い冬に暖房をつかうとき、蒸し暑い夏に窓を閉めクーリングするとき、断熱性能がよくても気密性能が悪い建物は、室内に気持ちいい温熱環境は確保できない。

室内側施工写真:外壁用ボードのつなぎ目にすき間が開いている
外壁用ボードのつなぎ目にすき間が開いており気密が取れていない。
外部構造用耐火ボードのすき間に気密テープを貼る

 こんな事例を目にしたことがある。開口部は全て工業製品のサッシで気密性に問題はなかったが、現場の建具屋さんが作った木製玄関ドアーと大工さんが施工した建具枠材との建て付けが悪く気密が充分にとれなかったケースがあった。冬の暖房時に冷たいすき間風が玄関からはいりこみ、特にキッチンで換気扇を回しているときなど建物内部が負圧になり、キッチの足元まで冷えてしまう、というクレームがあった。
 躯体の断熱・気密が十分であっても、外部建具まわりの気密性に一箇所でも気密不良あるとただちに居室の温熱環境に問題が生じるので要注意である。

6-2 結露発生のしにくい家づくり

 寒冷地で建てる終の住処は、結露の発生しにくい住まいづくりにしたいと考えていた。年間をとおして温度と湿度が激しく変化する気候特性では、住まいづくりとあわせて暮らしかたにおいても、結露発生に注意しなくてはならない。結露には表面結露と内部結露があり、表面結露は部屋の仕上材表面に発生する結露で、内部結露は床下や壁体内、天井裏におきる結露である。表面結露が発生するとその部分は濡れ、乾くまでにカビが発生し、そのカビにダニが集まることもある。内部結露では構造体の木材を腐らせる腐朽菌が発生するケースもある。このように結露は住む人の健康や建物の耐久性にも影響するため、十分注意した施工がもとめられる。

 結露を防ぐには2つのポイントがあり、1点目は、建物の内部空間の温熱環境を部分的に低温状態にしない、2点目は、室内空気にふくむ水蒸気の量を少なくする。1については、特定の部屋だけ暖める個別暖房や暖房を点けたり消したりする間欠暖房をしないことである。つまり建物の全室を暖房し、温熱環境に極端な差がでないようにすることが重要といえる。2については、多量の水と炭酸ガスを発生する開放型灯油ストーブなどは使わない。このストーブの使用は、気密性の高い住宅では不完全燃焼をおこす可能性もあり、危険である。

 人が暮らすだけでも相当な水蒸気が発生し、空気中の水分を除去するためには換気が重要な役割をになうが、この点については次章の設備工事で述べたい。家の中で発生した水蒸気は換気以外に、床・壁・天井の内装仕上材を吸放湿(調湿)性のある素材にすることで、室内の水蒸気のコントロールが可能となる。室内の湿度が高いときには吸湿し、湿度の下がる季節には放湿する吸放湿性のある素材は、伝統的な民家ではごく普通に使われており、床材は畳や板材、土壁、天井板など、吸放湿性の高い素材をもちいることで結露を防いでいた。

 一方、現代の新築住宅においては、室内仕上材に吸放湿性のない新しい建材を用いることがおおい。床フローリング材の表面には吸放湿のない塗装皮膜があり、壁・天井はビニールクロスが貼られ、窓には気密性の高いサッシが使われ、24時間換気扇をまわし室内の空気環境を整えているのは、なんとも考えさせられる状態である。口の悪い友人がこう表現していた。『最近の家はおかしいと思わない? ビニール袋にアルミの栓をしたような中で生身の人間が暮らすんだぜ、これちょっと変だよね。』

 終の住処では、床は木材、壁は左官で塗壁、天井は板材にしている。この素材は東京の家で30年間暮らした実績があり、安心して使える。

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