この章では室内の温熱環境と空気環境について、年間をとおして気持ちよいものにするため、どのように考え設計したのかをまとめている。
終の住処を建てる遠野は盛夏に30℃を超え、厳冬期はマイナス20℃にもなり、年間50℃ほどの気温差がある。また緑豊かな環境はコンクリートやアスファルトにおおわれた市街地とはことなり、暖候期において夕方から夜間・早朝にかけ湿度が高くなる傾向があり、降雨がないときでも85〜95%にもなる。このような気候特性において、冬の暖房と夏の涼房を放射型システムで気持ちいい温熱環境を実現するためには、蓄熱容量をいかに大きく確保するかが設計上の重要な課題となる。そして、この蓄熱部材をいかに温め、かつ消費エネルギーコストを抑えるかがポイントとなる。
最終的には太陽エネルギーでまかないたいと考えているが、まず第一歩として、この地域で豊富なバイオマスエネルギー(森林資源)を活用した薪ボイラーに焦点をしぼりつつ、長年使いこまれ技術的に安定している灯油ボイラーもあわせて検討することにした。
終の住処における電気設備で特殊なものは、夏と冬における建物全体の熱循環をになう機器があり、それ以外は一般的な住宅用電気設備となんら変わらない。
水道設備で特にコメントするものは、上下水道インフラのない場所で住まいを建て暮らしてゆくには、水の確保と周辺環境に悪影響をあたえない排水処理が課題となる。水の確保は第2章で紹介したダイナミックな井戸掘削を実施し、排水処理は自治体から合併浄化槽の設置を指導されている。
7章の工事項目は2017年9月初旬から12月、給排水・給湯配管は2018年4月に施工。
7-1 蓄熱用熱源の選定、蓄熱試行運転
当初、蓄熱用熱源の選定にあたっては、十分な時間的余裕をもちつつ進めたいと考えていた。しかし、東京の不動産整理などに時間と気力をとられ、セルフビルト建設を進めながら切羽詰まった状態で選定せざるをえなかった。
蓄熱方法の基本的な考え方
8トンの蓄熱水および基礎コンクリート37㎥、この両方の蓄熱量を水換算でカウントすると24.65トン分の水に相当する。年間を通して温度コントロールする方法の考え方として、床下空間(面積98㎡×高さ1.1m=107.8㎥ → 天井高を2.4mにすると、27畳ほどの部屋体積と同等)を空気媒体で温めることにより、水とコンクリートを同時に温めることが最もシンプルで設備コストが安価ですむ。この設備として温風放熱器(ファンコンベクター)を使うことにより、将来構想として太陽エネルギー利用システムへの変換もしやすいと考えていた。
蓄熱用熱源の選定条件は以下のような項目をシステムごとに検討した。
①ボイラー機器の設計コンセプト、機能・性能、②システム構築範囲、③設置条件、④メーカーの技術力およびメンテナンス対応、保障範囲、⑤イニシャルコスト、ランニングコスト、⑥運用および維持管理の容易さと安定性、⑦機器の耐用年数、更新コストなど。
7-1-1 国産薪ボイラーの検討
国産の薪ボイラーで暖房や給湯に対応できるメーカーは何社かあるが、最終的にはエーテーオー(株)のATOウッドボイラー7-1)を検討することにした。知人からの情報によると、この会社のボイラーは当初農業用ビニールハウスの暖房・給湯用に開発された製品らしく、廃材や間伐材など太く長い丸太材も焚くことができる。その後、燃焼室上部にある貯湯槽に熱交換器を内蔵し給湯や床暖房にも対応可能となり、現在では農林業施設、各種作業所、小規模宿泊施設や住宅などにも設置実績を広げている。
薪ボイラーの設置スペースとして、温暖地域では軒下や差掛け屋根などのオープンスペースがみられる。一方、寒冷地では凍結や積雪に配慮すると、ボイラー小屋など屋内に設置が必要である。また、ボイラー燃焼のための給気および排気が強制給排気システムになっていれば、ボイラー室に屋外の冷気を直接入れることもなく、凍結の心配もすくない。しかし、その機能は部品対応がされてなく、寒冷地での設置実績はほとんどないようだ。岩手県内でも比較的暖かい太平洋沿岸の八戸市にある大規模な椎茸栽培施設を見学する機会があった。この施設では栽培棚下部の土間床に配管し、貯湯槽の湯をダイレクトに熱循環する方法が採用されており、システム機器の一部が凍結しやすく、補修対応に時間がかかるとの情報をえた。ビニールハウスごとに大型タイプの薪ボイラーが設置されており、薪は椎茸栽培が終了したホダ木を有効活用していた。
検討している小型ボイラーに使う含水率20%前後のよく燃える薪の消費量を遠野の気候特性で試算すると年間12〜14㎥であり、ボイラー小屋も必要となる。
システム全体の機器費用、設置工事費に150万円ほどのイニシャルコストがかかり、耐用年数は10〜15年。貯湯槽の水温を70〜80℃ほどにたもち、熱交換器から安定した温度の不凍液を循環させ、ファンコンベクターを効率よく作動させるためには、日々のボイラー燃焼作業に慣れるまでかなりの習熟期間がかかりそうだ。暖房が必要となる10月〜5月までの8ヶ月間は、薪づくりとボイラーマンに専念することになり、「数日ちょっと家を空ける」というわけにもいかないだろう。
7-1-2 欧州製薪ボイラーの検討
ヨーロッパ製の薪ボイラーシステムを調べたところ、生活文化・習慣の違いにより、システムの基本設計コンセプトが一種独特な印象をうけた。薪ボイラーから発生する熱量をまず蓄熱タンクにいったん蓄え、タンク内に設置した熱交換器より暖房と給湯に対応している。
薪ボイラーからの熱を効率的にこの蓄熱タンクに蓄えるという発想は、多分石造りの建物がおおい地域の自然な考え方かもしれない。若いころ、夏の終わりから冬にかけ5ヶ月ほど欧州の国々を旅したことがあり、石造りや、石造り+木構造のホテルによく泊まることがあり、熱容量のある建物の蓄熱性を活用した暖房方法を観察した。10月下旬、朝夕寒さを感じるころ、石造りの部屋の小さな窓下の放熱器がウオーターハンマーの音をたてながら暖房スタートするのを体験した。部屋の広さから考えると暖房能力不足にみえるが、ホテルの方にうかがうと、この放熱器に秋口から春先まで24時間連続して40〜50℃の温水を循環させることにより、部屋は十分ここちよいとのこと。
薪ボイラーについて2社、蓄熱タンクについて2社、それぞれユーロ圏の別の国で作られているが、システム設計として共通に組みあわせることが可能なようである。
現在、国内に代理店が2社あり、岐阜県大垣市にある(株)森の仲間たちが取り扱っている薪ボイラーシステム7-2)を見学し、詳細を検討した。会社代表の森さんは薪ボイラーシステムの普及をとおして、地域が主体となった薪流通の仕組みを創り、地域再生に情熱を持って取り組まれており、好感のもてる方であった。
大垣市へは花巻空港から名古屋飛行場へ飛び、その後レンタカーで向かった。
フライトはほとんど雲のうえであったが、北アルプス上空あたりを飛行中に雲が切れ、なんと幸運にも剱岳、立山、鹿島槍の峰々が見えてきた! ほどなくすると穂高岳連峰の絶景も眺めることができた。
鋸の刃のような前穂高北尾根、奥又白の氷壁、西穂から奥穂高への岩稜を食い入るようにみつめていると、遥か昔、高校時代から10年間、情熱を燃やしチャレンジしてきた厳冬期の登攀、風雪にたたかれながら雪に穴を掘りビバークしたことなど、まるで昨日の出来事にようにフラッシュバックしてきた . . . 上高地がみえはじめると、あのころと同じように無事下山できた安堵と達成した喜びを、天空から味わうという得難い体験をした。
翌日、30年ぶりに明治村にある西園寺公望の別邸「坐漁荘 」を拝見した。この建物は彼が政治の最前線から引退したあと、1919年に静岡県興津の旧東海道沿い建てられ、その後、明治村に移築復元され1970年から公開されている。
京風の数寄屋造りで、奥ゆかしく落ち着いた意匠に満ち、空間構成、室内外の繋がり、細部にいたるまで建主の見識と趣味のよさが滲みでる住まいであり、好きな建物のひとつといえる。
今回の旅は、若いころの記憶に残る、ほとばしるようなパッションを体感することができ、なんとも贅沢で豊かな心持になった。
検討したシステム機器
薪ボイラーはドイツ製 VIESSMANN 社の定格出力17〜45kw家庭用タイプ、蓄熱タンクはオーストリア製 FORSTNER社の1,000Lタイプ。
この薪ボイラーには燃焼の自動制御機能がついており、熱交換器には半自動洗浄装置があり燃焼効率は93%を超える優れた性能である。薪長55cm、薪含水率は25%以下が望ましい。薪ボイラーの外形寸法・重量:幅70cm、高さ123cm、奥行き137cm、重量502kg
蓄熱タンクに内蔵した二系統の熱交換器から効率よく給湯・暖房が可能なシステムとなっている。タンクの外形寸法(断熱材込):直径109cm、高さ207cm、本体重量は250kgで、蓄熱用水またはこれに変わる不凍液が入るとプラス1,000kgとなる。
このシステムは高性能な薪ボイラーと蓄熱タンクの組み合わせにより、10kgほどの薪で大量の熱が貯められるため、真冬でも1日朝夕2回の薪投入で運用が可能とのこと。システム設置スペースとしてボイラー小屋の広さは最低でも10㎡は必要、システム重量が2トン近くもあるため基礎底盤の補強が必要となる。年間の薪使用量を試算すると9〜10㎥程度。
終の住処でこのシステムを採用した場合、この蓄熱タンク部分と建物に設置する蓄熱用水の蓄熱部位が二重になってしまう。また、薪ボイラーの発生熱量を国産メーカーのファンコンベクターに接続可能かどうか技術情報が確認できず、検討が順調に進まなかった。
欧州製のシステムそのものは技術性能が高く、完成されたものと評価できる。システムの耐用年数は20年、システム設置のイニシャルコストは約350万円、20年毎の更新費用も考慮すると住宅の暖房設備機器としての導入は躊躇せざるを得なかった。
7-1-3 国産灯油ボイラーの検討
灯油ボイラー製作に実績があり、全国規模で営業展開しているところは何社かある。設備機器工事を依頼する(有)ふくしま商店の福嶋さんのアドバイスより、東北エリアで住宅設備機器の販売実績のある(株)長府製作所を選定し、システム機器の検討をおこなった。
8トンの蓄熱水と37㎥のコンクリート基礎を年間20〜29℃(冬場のピーク時における蓄熱水温の上限を28〜29℃、6〜9月の夏場はボイラーを停止し放熱後の安定した蓄熱水温は20〜22℃に設定)に安定蓄熱させるために必要な熱量を試算し、ボイラー性能を選定する。あわせて、ボイラーで発生した熱量を不凍液循環によりファンコンベクターを稼働させるシステムも検討する。機器の選定にあたっては、長年使い続けられ安定した性能実績があり、運用が容易で、何年たっても機器の入手が可能でシンプルなタイプとした。そして、長府製作所盛岡営業所の所長であった坂ノ上さんにアドバイスをいただき、、最終的に以下の機器に選定した7-3)。
暖房専用ボイラー
屋内設置型、強制給排気タイプ、暖房出力/15.0kW(12.900kcal/h)〜 6.0kW (5,160kcal/h)、半密閉式 機器品番/DB-1510RGF 外形寸法:高さ59cm、幅47cm、奥行き29cm
東京で30年間暮らした家では、灯油ボイラーで全室床暖房、和室はパネルヒーターにしていたが、屋外設置型の灯油ボイラーは着火時と燃焼時の音が大きく、つねづね気になっていた。福嶋さんにたずねたところ、燃焼方式の技術革新がすすみすっかり静寂になったとのこと。これなら床下に設置しても騒音問題はなく安心した。
ファンコンベクター:屋内設置型、暖房出力/6.00〜2.84kW(5,160〜2,440kcal/h)寒冷地暖房木造16畳用×2台、機器品番/RHC-63W 外形寸法:高さ48cm、幅45cm、奥行き20cm
灯油タンク:屋外設置型、195L×2台 外形寸法:高さ1m25cm、幅1m11cm、奥行き39cm
このボイラーとファンコンベクターは「温水ルームヒーター」の名称で暖房システムとして商品化され、10年以上の販売実績があり、技術・性能的に安定したシステムといえる。運用はリモコンのタイマー運転機能で自動化ができ、まったく手間がかからないのは嬉しい。
このシステムは、高さ1.1mの床下空間に設置が可能で、ボイラー設置専用スペースをつくる必要もない。強制給排気方式であるため燃焼用として室内空気を使うこともなく、屋外に直接排気するため安心である。
システム全体の機器費用および設置工事費合計のイニシャルコストは60万円ほどで、設計耐用年数は10年。年間の灯油使用量を試算すると650〜700L程度。
7-1-4 燃料コスト比較、蓄熱用熱源の選定
遠野地域において水蓄熱方式による暖房を採用した場合、10月はじめから翌年5月末まで8ヶ月の蓄熱運転にかかる燃料コストを、それぞれのケースについて試算すると以下のようになる。
国産薪ボイラー:薪の年間最大使用量を14㎥として、10〜11月の2ヶ月で全体の15%ほど2.1㎥、12〜3月の4ヶ月で全体の70%ほど9.8㎥、4〜5月の2ヶ月で全体の15%ほど2.1㎥、2018年広葉樹薪1㎥コストは8,800円(遠野地域価格)、14㎥×8,800円/㎥ = 123,200円
欧州製薪ボイラー:薪の年間最大使用量を10㎥として、10〜11月の2ヶ月で全体の15%ほど1.5㎥、12〜3月の4ヶ月で全体の70%ほど7㎥、4〜5月の2ヶ月で全体の15%ほど1.5㎥、2018年広葉樹薪1㎥コストは8,800円(遠野地域価格)、10㎥×8,800円/㎥ = 88,000円
灯油ボイラー:灯油の年間最大使用量を700Lとして、10〜11月の2ヶ月で全体の15%ほど105L、12〜3月の4ヶ月で全体の70%ほど490L、4〜5月の2ヶ月で全体の15%ほど105L、2018年の灯油1Lコストは88円(遠野地域価格)、700L×88円/L = 61,600円
ちなみに5年後の2023年末、遠野地域価格の薪1㎥は12,800円(45%UP)、灯油1Lは107円(22%UP)に上昇した。この年はロシアによるウクライナへの軍事侵攻が2年近くになり、10月からはイスラエル・パレスティナ情勢の激変によりエネルギーコスト、輸送コスト、食料コストなど全ての生活物価が急騰した。
薪と灯油の燃料費比較をとおして、薪を一般市場で購入し灯油コストと比較しても、まったく意味がないように感じはじめた。大量の薪を必要とする薪ボイラーを使うことは、地域の間伐材などバイオマスエネルギーを有効利用することが必須条件であり、地域の森林資源再生や地域経済に直接関係する重要な意味があるものと考えるようになった。
欧州製薪ボイラーシステム検討でお世話になった(株)森の仲間たちの森さんが情熱をもって語っていた『薪ボイラーシステムの普及をとおして、地域が主体となった薪流通の仕組みを創り、地域の「森と人」、「人と人」がつながる新しい経済を生み出すことによる地域再生に情熱を持って取り組んでいる』、ことを思い出したのである。
QMCHでは暖炉用に敷地内の森から薪づくりをしている。年間5㎥ほど使うが、含水率20%以下のよく燃える火持ちのいい広葉樹の薪を用意するためには、足掛け2年かかる。薪割り後の乾燥工程を考えると、50%以上の余裕をもって薪を準備しておく必要があり、常に8㎥近い薪を積みあげ乾燥させることになり、薪づくりにはそれなりの情熱とエネルギーが求められる。
質のいい薪をつくるためには、樹木を伐採し、枝処理後に玉切りにし、薪を割り乾燥させるまで、樹種・性質・木目のくせなど木について多面的な知識と洞察力を必要とする。
かつて二十数年にわたり、中世の時代から現代まで住み継がれている全国50カ所の伝統的集落を調査した折、住環境に薪が美しく積まれている景観を必ずといっていいほど観る機会があった。それはことのほか印象深く、そこで暮らす人々の品格をも感じさせるほどであった。
【トピックス7−1 QMCH 薪づくり】
本館土間リュームの暖炉で焚く薪はクイーンズメドウの森の樹木からつくり、
薪として暖炉で焚けるようになるまで2年ほどの手間がかかる。森内整備のときに見つけた枯れかかった樹木や風倒木には目印テープをつけておく。樹木は落葉すると冬にそなえ地中から水分を吸い上げなくなり、伐採にてきした時期となる。
チェーンソーで伐採するより枝の片付け処理の方が何倍も時間がかかる。その後、幹部分を暖炉サイズにあわせて玉切りにする。この玉切り処理は伐採場所でおこない、そこで春まで一次乾燥させ、春になってからその玉切り材を施設際の薪割り場まで運びだす。
田植えが終わるころより合間をみては薪割りに精をだし、薪置き場に積み上げ二次乾燥工程に入る。
薪を割ってから一年以上たたないとよく燃える乾燥状態のいい薪にはならない。こんな訳で薪として暖炉で焚けるようになるまで、2年もかかってしまう。
玉切りの直径が30cm以上になると斧で割るには手間がかかるので、油圧手動式の薪割り機を導入し、半割ないしは四つ割りにしてから斧を使うようにしている。
蓄熱用熱源は灯油ボイラーシステムに決定
以上のような検討をへて、終の住処の蓄熱用熱源は将来構想として太陽エネルギー利用システムへの変換も考慮しつつ、灯油ボイラーシステムに決定した。このシステムは専用のボイラー室を用意することもなく、床下空間に設備機器をうまい具合におさめることができた。
7-1-5 蓄熱試行運転
10月6日に蓄熱用水8トンの注入作業が完了し、次に断熱施工をすすめながら電気配線、浴槽設置なども同時に着手する。9月末からスタートした蓄熱用水の注入時、蛇口から出てくる井水の温度は10.5℃であったが、気温の低下とともに床下の直径200mmの水袋に注入した井水の水温は徐々に下がりはじめていた。断熱・気密施工は当初の予定よりおおはばに遅れ、10月も下旬になると朝の最低気温は マイナス5℃になることもあり、蓄熱用水の水温は7.5℃に下がった。
断熱・気密施工完了の目処がたちはじめてきた11月中旬、蓄熱用水の水温は 4.6℃まで低下していた。断熱施工の進捗をよみながら蓄熱用熱源の灯油ボイラーシステムの設置をはじめた。蓄熱用水が氷る前にボイラーの試行運転をスタートさせたいが、勤労感謝の日をすぎるころには水温は3.2℃まで下がっていた。水が凍結すると体積が増えるが、直径200mmの水袋には目一杯注水してないため、凍結しても水袋がパンクすることはない。
11月下旬、断熱・気密施工とボイラーシステム設置の突貫工事をすすめ、月末までに両方とも完了させる。この時期、毎朝7時すぎにはハラハラしながら蓄熱水の水温を測っていた。30日の水温は2.0℃まで下がった。いよいよ明日からボイラーシステムの試行運転をスタートさせ、8トンの水を徐々に加温できそうで、ほっと胸をなでおろした。
12月1日より灯油ボイラーシステムの試行運転をスタート。蓄熱水を一日1℃ほど水温が上がるようボイラーの間欠運転を調整する。一週間後、蓄熱水は8℃に上昇。その後、3日間ボイラーシステムをフル運転した結果、1日に3.6〜3.7℃ほど水温は上がった。72時間後の12月10日、ファンコンベクター設置場所の影響により8トンの蓄熱水温にはばらつきがあるものの、18〜20℃まで上昇。この時、建物中心あたりの基礎底盤コンクリートの表面温度は18〜19℃になっていた。一階居室の室温は15.0℃に安定し、この時の床表面温度は16.0℃、壁表面温度は15.0℃、高さが4mある吹抜天井の表面温度は14.5℃であった。
水は対流現象をおこし、熱の伝搬が早くすすむ。一方、コンクリートは熱の伝導速度がおそいという特性がある。放熱は水のほうが早く、コンクリートはゆっくり放熱する。建物の蓄熱用素材として、この二者をもちいる方法はベストミックスといえる。
室内作業中、寒くもなく汗をかかない室温は14℃ほどであることを突きとめ、今後の越冬工事中の最適な室温とする。室内の気持ちいい温熱環境を把握するには、室温とあわせ室内の放射環境をつかむため、床・壁・天井の表面温度を計測することが重要だが、今は施工途中であり、冬季室内作業に適した室温の確認にとどめる。高さが4mある吹き抜けの上下温度差は、今のところ0.5℃ほどであり、まずまずの放射環境を示していた。
工事途中であるが、建物の蓄熱性能と断熱性能のおおよその効果を見極めるため、その後、ボイラー運転を停止し、室温の低下状況をチェックする。24時間後の室温は14℃、48時間後の室温は13℃、72時間後は11℃という具合に、外気温の影響をうけつつも一日1℃ほどの低下がみられた。この間、床・壁・天井の表面温度はほぼ室温と連動して低下していた。室内の放射環境が急激に悪化してないため、作業をしているときもさほど不快感はない。
ボイラー運転停止による室温変化の確認後、室温が14〜15℃に安定するようボイラー運転時間とファンコンベクターの吹き出し温度を調整し、システムを自動運転に切り替える。蓄熱用水の水温コントロールは、当初考えていたものほど神経質になる必要はまったくないことが判明した。その理由は水の蓄熱容量が大きいため、ボイラー調整が多少うまくできなくても水温の変動幅が少ないからといえる。
このころ換気設備は未施工であり、毎日4人で作業をしているため呼吸により相当の水蒸気が室内に放散されており、結露発生の有無についても注意深く観察する。